国語事件殺人辞典

劇団回帰線 2011.1.13-16 シアターZOO


公演終了。

ご来場いただいたみなさん、ありがとうございました。

シアターZOO企画公演【Re:Z】

じゃぱどら!!

地区大会「井上さんと岸田さん」


劇団回帰線「国語事件殺人辞典」

作・井上ひさし / 演出・西脇秀之


今年、惜しまれつつ逝った井上ひさしの作品を上演。

手に汗握るエスプリ!血も凍るユーモア!息を呑むダジャレ!

戦慄の抱腹絶倒弱肉強食人文系純情派学術的コメディ。

とくとご覧あれ。

あー、胸がよじれ、腹がおどる!


《出演者》 小林なるみ/京極祐輔/松岡春奈/甲斐大輔

重堂元樹(演劇公社ライトマン)/長浜浩宣(劇団ひまわり札幌)

鎌田大介(劇団パーソンズ)/佐藤愛梨(劇団パーソンズ)

【日時】

1月13日(木)20:00

  14日(金)20:00

  15日(土)14:00 / 18:30

  16日(日)13:00

【会場】シアターZOO

札幌市中央区南11条西1丁目ファミール中島公園地下1階

(地下鉄南北線「中島公園駅」1番出口より徒歩5分)

TEL:(011)-551-0909 メール:zoo@h-paf.ne.jp

【チケット】

[前売] 一般2000円 学生以下1,000円

[当日] 一般2,300円 学生以下1,000円


※2月17日〜20日まで上演される WATER33-39「犬は鎖に繫ぐべからず」とのセット券が発売されます。

[セット券]一般3,000円 学生以下1,500円 

※各30セット限定販売。北海道演劇財団のみの取扱となります。


《チケット取扱い》 

4プラプレイガイド   大丸プレイガイド  


《お問合せ・ 電話予約》

北海道演劇財団  TEL011-520-0710


■主催■ 劇団回帰線、WATER33-39、北海道演劇財団、NPO法人TPSくらぶ

 このノートを書くために、井上さんのプロフィールを調べた。井上さんは、1934年、山形県の生まれ。今年惜しまれて逝くまでの七十五年間に、放送台本、コント、戯曲、小説、エッセイ、書評、それから…、とにかく多彩で膨大な仕事を井上さんは遺した。……と、こうやって「井上さん」と書くと、なんだか親しい間柄のように見えるが、残念ながらこれっぽちの面識もない。ほんとは「井上先生」と呼ぶべきところなのだが、尊敬だとかリスペクトだとかの前に(いやそれ以前に、できの悪い僕には、その仕事の大きさがよくつかめない)、まずファンであるのだ。だから「井上さん」と呼ばせていただく。…やっぱり、おそれ多いけど。

 そういえば、同じく今年亡くなったつかこうへい(哀悼)を、僕らは「つかさん」と呼ぶことが多いが、少し上の世代の人たちは「つか」と呼び捨てにしたりする。もちろん愛着やシンパシーがあるからこその呼び捨てなのだが、同じ理由で「井上」と呼び捨てにする人を僕は知らない。「井上さん」が「つかさん」より一つ上の世代ということもあるだろうが、それだけではない気がする。だって、演劇好きの多くは、寺山修司を「寺山」と、唐十郎を「唐」と呼び捨てにする。

 余談ついでに、僕らは、忌野清志郎(おなじく哀悼)を「清志郎」と呼び捨てにし、桑田佳祐(がんばって!)を「桑田さん」と呼ぶ。どこか似ている。で、僕にとって井上ひさしは、「井上さん」なのである。


 さて、今回上演する「国語事件殺人辞典」は、その巻末の記録を見ると1982年に初演されている。今から30年近く前、井上さんの40代後半の作品だ。こまつ座はまだ旗揚げしていない。その前の年には、あの「吉里吉里人」が世に出ていて、その10年前には直木賞と岸田戯曲賞をいっぺんに両手に掴んでいる。その10年前には、もう放送作家の仕事していて、あの「ひょっこりひょうたん島」が放送開始となるのは1964年だ。

 僕の歳では、そこまでさかのぼると、まったくピンと来ない。でも、30年前なら、少しはわかる。ジョン・レノンが死んで、ルービックキューブが流行り、「ひょうきん族」が始まった頃だ。七十年代から始まった日本の消費文化は、ここで一気に加速してゆく。

 30年前と今で変わったことがある。30年前、世界はまだごつごつした重量感のある手を焼く対象だった。少なくとも、その印象をまだ残していた。今、世界は、押潰され、圧縮され、扱いやすいものとなった。プレスされた世界は、立体感を失い、手に取りやすいスクラップブックとなった。

 30年前、世界には、まだかろうじて重さがあり、奥行きがあり、断絶があり、それゆえ個人の手には余るもので、しかし手応えがあった。手応えがあれば、人は、それがどれほど堅い岩盤であろうが、先を掘ってみようとする。手応えのある世界は、それを扱う人に、労働を強いて、汗をかかせ、ときに命を危険にさらす。

 30年前、言葉は、世界を相手にするときの、ハンマーであり、ドリルであった。あるいは削り取った世界の断片を運ぶ、シャベルであり、手押し車であった。井上さんは、手に余る世界を言葉で掘り進む職人さんのような人だな。と、この作品を読み返して思った。

 気づけば、今僕たちがやっている仕事などは、世界の手応えをどう取り戻すかということばかりかもしれない。「まだ、なんとか手応えを感じるツールがありますよ」「ほら、こうやったら世界を感じられる気がするでしょう」なんてことばかりやってる。

 この作品は、まだ世界に手応えがあった時代の、その終末期の作品だ。「プレスされた世界」とか、そんな言葉を使っているうちは、何も壊れないし、削れもしないよと、井上さんはおっしゃるのかもしれないけど。


劇団回帰線 西脇秀之